初回限定価格の「通常価格」は誰が確かめるか
初回体験の広告には、2つの数字が並んでいることがあります。「通常価格25,000円」に線が引かれ、その横に「初回19,900円」と出ている形です。
線が引かれているほうの数字は、何を指しているのか。ここは条文が見ています。ただし、見ている強さが場面によって違います。
まず「表示」の定義から
不当景品類及び不当表示防止法2条4項が、この法律の「表示」を決めています。
この法律で「表示」とは、顧客を誘引するための手段として、事業者が自己の供給する商品又は役務の内容又は取引条件その他これらの取引に関する事項について行う広告その他の表示であつて、内閣総理大臣が指定するものをいう。
「顧客を誘引するための手段として」なので、集客のために出している価格の並べ方はここに入ります。店の中の掲示も、公式サイトの料金ページも、広告も同じ扱いです。
価格を見ているのは5条2号
同じ法律の5条が、してはならない表示を並べています。柱書がこれです。
事業者は、自己の供給する商品又は役務の取引について、次の各号のいずれかに該当する表示をしてはならない。
価格に当たるのが2号です。
二商品又は役務の価格その他の取引条件について、実際のもの又は当該事業者と同種若しくは類似の商品若しくは役務を供給している他の事業者に係るものよりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示であつて、不当に顧客を誘引し、一般消費者による自主的かつ合理的な選択を阻害するおそれがあると認められるもの
読むところは「実際のもの…よりも取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される表示」です。実際に売っていない価格を「通常価格」として並べ、そこから下がったように見せる形が、ここに当たりうることになります。
根拠を出させる仕組みは、1号の側にしかない
ここが分かれ目です。7条2項に、資料を出させる規定があります。
内閣総理大臣は、前項の規定による命令(以下「措置命令」という。)に関し、事業者がした表示が第五条第一号に該当するか否かを判断するため必要があると認めるときは、当該表示をした事業者に対し、期間を定めて、当該表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができる。
名指しされているのは「第五条第一号」です。1号は品質や内容の優良さについての表示で、価格の2号ではありません。
5条1号(内容が著しく優良に見える表示)
- 7条2項が資料の提出を求められるとしている
- 出さないときは、その表示は該当するものとみなされる
- 対象は品質・規格その他の内容
5条2号(価格が著しく有利に見える表示)
- 7条2項の名指しは1号だけ
- 価格の根拠を出させる同じ仕組みは置かれていない
- 対象は価格その他の取引条件
どちらも禁止だが、行政が資料の提出を求められると条文が書いているのは1号の側だけ
この非対称が、読者の側でやることを決めます。内容の側は、行政が動くときに事業者が資料を出す形が条文にあります。価格の側は、その形が用意されていません。だから通常価格の根拠は、契約する前に自分で聞くことになります。ただし特定商取引法の側には別の仕組みがあり、そちらは価格の表示にも及びます。パーソナルジムの誇大広告はどこまで見られるかに分けて書きました。
何を聞けばよいか
聞くことは1つです。その通常価格で、いつからいつまで売っていたのか。
- その価格でこれまで売っていたのか。売っていたなら、直近ではいつか
- 「期間限定特価」と出ている場合、その期間はいつまでか
- 期間が過ぎたあと、通常価格に戻るのか
3つ目が抜けやすいところです。期限が書かれていない期間限定は、いつ終わるのかを読者が確かめられません。終わらないなら、それは通常価格ではなく、その価格が実際の価格になります。
「いつからいつまで」には、目安の期間がある
聞いたときに、何をもって長い短いを判断するのか。消費者庁の「不当な価格表示についての景品表示法上の考え方」が、こうした表示を二重価格表示と呼んで、判断の目安を置いています。
一般的には、二重価格表示を行う最近時(最近時については、セール開始時点からさかのぼる8週間について検討されるものとするが、当該商品が販売されていた期間が8週間未満の場合には、当該期間について検討されるものとする。)において、当該価格で販売されていた期間が当該商品が販売されていた期間の過半を占めているときには、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とみてよいものと考えられる。
見るのはセール開始時点からさかのぼる8週間で、その中でその価格だった期間が過半を占めているかどうかです。売っていた期間が8週間に満たない場合は、その期間で見ます。
そのうえで、外れる場合が続けて書かれています。
ただし、前記の要件を満たす場合であっても、当該価格で販売されていた期間が通算して2週間未満の場合、又は当該価格で販売された最後の日から2週間以上経過している場合においては、「最近相当期間にわたって販売されていた価格」とはいえないものと考えられる。
通算2週間未満だった価格と、最後に売ってから2週間以上たった価格は、過半を占めていても外れます。「去年はこの価格でした」と言われた場合はここに当たります。
これはガイドラインが示す考え方であって、条文の数字ではありません。それでも、聞いた答えを当てはめる目安になります。
回数プランでは、割引の見え方が変わる
回数プランの広告には、1回あたりの単価が出ることがあります。「通常1回25,000円が、6回プランなら1回あたり19,000円」という形です。
ここで見るのは、割引率ではなく総額と条件です。総額が5万円を超え、期間が1か月を超えるなら、その契約にはパーソナルジムのクーリングオフ条件で扱った線が当たります。やめたときにいくら返るかのほうが、1回あたりの単価より効きます。
総額の出し方はパーソナルジムの料金と相場の見方にまとめました。入会金とオプションを足してから比べるところです。
当サイトが案内している MIYAZAKI GYM も、回数の違うコースと都度払いを同じページに並べています。回数が多いコースほど1回あたりは下がり、先に払う総額は上がります。1回あたりの単価だけで並べると、先に払う額の差が見えなくなります。 金額は上の記事に出しました。
「無料」と出ているとき
体験が無料と出ている場合も、見るところは同じです。無料なのが何で、有料なのが何かを分けます。
- 施術そのものが無料なのか、カウンセリングだけが無料なのか
- 当日にかかるものがあるか(指定のウェアやタオルの費用など)
- 無料になる条件があるか(当日の契約が条件になっていないか)
3つ目が条件になっている場合、その場で決めることになります。決めなくてよい理由は条文の側にあります。契約する前に渡される書面と、契約したあとに渡される書面が別に用意されていて、8日はあとのほうから数え始めます。そこはパーソナルジム体験の当日にやることにまとめました。
表示が動いたときに残しておくもの
価格の表示は書き換わります。読者が見た日の表示を、あとから確かめる方法は多くありません。
申し込む前に、料金ページの画面を保存しておくと、説明と食い違ったときに手元に材料が残ります。日付が入る形で残すのが確実です。書面に書かれていない条件は、あとから確かめられません。
不当な表示が見つかったときの相談先は、消費者ホットライン 188 です。最寄りの消費生活センターにつながります。
まとめ
- 景品表示法2条4項の「表示」は、顧客を誘引するために出す価格の並べ方も含む
- 価格が著しく有利に見える表示は5条2号が禁じている
- 7条2項が資料の提出を求められるとしているのは5条1号で、価格の2号ではない
- だから通常価格の根拠は、契約する前に自分で聞くことになる
- 期間限定と出ているなら、その期間がいつまでかを確かめる